Q76.人工呼吸器を装着中のARDS患者に対して、呼吸介助手技を用いて介入する際の留意点はありますか?
A76.ARDSは急性の両側性の肺障害による極度の酸素化悪化を伴っています。
酸素化を維持するために高い持続的な陽圧(PEEP)が必要な状態です。
ARDSに対してPEEPをかけた状態では、酸素化を維持するために、PEEPをなるべく維持できるように考えなければいけません。PEEPは、虚脱した肺胞を開存させ肺の残気量を上げる効果もあります。呼吸介助などの胸郭を圧迫する手技は、加減によっては残気量を減少させ、人工呼吸器によって得られているPEEP効果を打ち消す可能性があります。よって、実施に際しては十分な検討が必要となります。
また、胸郭を圧迫する手技を行い、肺胞が虚脱・開放を繰り返すことで、肺実質に傷害が加わり、局所で炎症性物質(炎症性サイトカイン)が産生され二次的な炎症性肺傷害を発生するリスクもあります。このため極力、肺胞が虚脱・開存を繰り返しずれ応力が、生じないように配慮する必要があります。
ARDSの治療戦略として、二酸化炭素の多少の蓄積は許容してでも、ずれ応力が生じないように換気量を最小限にするような戦略がとられる場合もあります。呼吸介助手技での介入の際は、それぞれの人工呼吸器のモードや設定で何を優先しているのかを確認しながら、胸を押すことで得られる効果が、有効なのか?逆に治療を妨げてしまうのか?を考慮したうえで介入する必要があります。