日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

新型コロナ 学会緊急提言

高齢者の外出制限による合併症を予防しよう

 

“寝たきり”は「自分には関係ない」と思っていませんか?実は外出しづらい現在、自宅でゴロゴロとしている状態は、実は寝たきりと同じなのです。寝たきり予防を専門とする日本離床学会が、家で寝てばかりいる弊害をわかりやすく解説します。

 
 

廃用症候群

外出しないで寝てばかりいると、
廃用症候群といって、寝ているだけで、右のような様々な障害が次々に発生し、元の生活を奪われてしまうのです。

なぜ、安静に寝ているだけで、様々な障害が同時に発生するのでしょうか。それをひも解くキーワードは「重力」です。ベッドの上では、ほとんど重力に逆らって活動する必要がありません。つまり、無重力の宇宙と同じということができます。

宇宙飛行士は、長期に無重力環境にさらされ、廃用症候群に陥る危険があります。そうならないために、宇宙に行く前、滞在中も厳しい訓練を受けているのです。

(写真提供JAXA / NASA)

それでも宇宙飛行士が地球に帰還するとどうでしょうか。自分の足で立ち上がることができません。入院して安静にしている患者さんは、訓練も受けていないのでもっと厳しい状態に陥る危険があるのです。

(写真提供JAXA / NASA)

健常男性10名を対象とした1週間の寝たきり研究では、大腿四頭筋※の筋断面積が3.2%減少したと報告しています1)。さらに、一度落ちた筋力は、若年者ではリハビリにより回復しますが、高齢者ではなかなか回復しにくいことも指摘されています7)。筋力は「落ちる前に対策を打つ」ことが大切です。

 
 

すばり、仰向けが一番悪い姿勢になります。人間は、胸とお腹の間にある、横隔膜を使って呼吸しています。普段、座ったり、立ったりして生活している時には、普通に横隔膜が働くことができますが、仰向けになると問題が発生します。お腹にある、腸や肝臓といった重い臓器が、仰向けになると頭のほうに移動し、横隔膜を圧迫してしまうのです(図)。その結果、肺、特に背中側の肺に空気が入りにくくなり、無気肺や肺炎を発生してしまうのです。

腹部臓器による横隔膜への圧迫

足にできる血栓「深部静脈血栓症」が怖い理由

長い時間飛行機に乗っていたり災害時に狭い避難所で生活したりする人に多いのが、深部静脈血栓症(Deep Vein Thrombosis:以下DVT)です。DVTは寝たきりの患者さんにも発症します。限られた狭い空間に長時間いることで下肢の血流がうっ滞※し、血が固まって血管を塞いでしまうのです。入院生活は、狭かったり動ける環境になかったりという点で避難所での生活とよく似ています。このDVTの血栓が剝がれて肺に飛ぶと、肺塞栓症※となり命を落とす危険もあるため注意が必要です。

※ うっ滞  血液の流れが弱くなり渋滞を起こしている状態。

※ 肺塞栓症  肺の血管に血栓が詰まり胸の痛みや呼吸困難などを生じ、場合によっては死に至る病期。

こんな症状はDVTかも!?  ~ホーマンズサイン~

DVTかどうかを確認できる簡単なテストがあります。患者さんに横になってもらい軽く膝を曲げた状態で、足首を曲げていきます(爪先が患者さんの顔の方を向くように)。そのときに、ふくらはぎに痛みを生じる場合はDVTの発生を疑います。これをホーマンズサインと言います。あくまでも予測ですが、覚えておくと便利です。

 
 

寝たきりだとなぜ血が固まるの?

入院している寝たきり患者さんがDVTになりやすい理由は主に以下の4つです。

 
 
 

その対策は病気をしても動くこと 離床 です。

離床とは、病気やケガなどで、臥床状態となったときに、ベッドや布団から起き上がり、立ち、歩く、ことをいいます。こうした活動を行うことで、廃用症候群を予防し寝たきりを防ぐことができます。離床に関する科学的根拠はこちら

病気をしても動くこと「離床」の大切さ、安静の怖さを「医学の知識」に基づいて備えることで、入院しても自ら「起きる」重要性がわかります。

 

もう少し負荷をかける方法は?

筋力トレーニング(筋トレ)は低負荷でも効果が認められています。筋トレというと、鉄アレイを持って負荷をかけなければ効果がないと思われるかもしれませんが、「自重トレーニング」といって、自分の体重の負荷でも十分な筋トレになります。
筋力の改善は、関節への負担軽減による腰痛・膝痛の改善、体脂肪の減少、生活習慣病の改善、ロコモティブシンドローム予防など様々な効果が期待できます。

 
 

当会では簡単なスクワットをおすすめします。
トイレに行ったあと、スクワットを10回やりましょう。2時間に1回くらいはトイレに行くので、10回トイレに行ったら、それだけで100回のスクワットを行うことになります。膝を曲げすぎず、無理のない範囲でやってみましょう。

 

当学会ではこうした知識を学ぶ通信教育コースも準備しています。
興味のある方は、是非、下記リンクをご覧ください。

通信教育コースへのリンク
 

1)Dirks ML, Wall BT, van de Valk B et al. : One Week of Bed Rest Leads to Substantial Muscle Atrophy and Induces Whole-Body Insulin Resistance in the Absence of Skeletal Muscle Lipid Accumulation. Diabetes, 65, 2862-2875, 2016.