日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.589 【THA後はボールをみよう!】股関節脱臼に関するQ&A

質問

全人工股関節置換術(THA)後の離床のリスク管理として脱臼予防が重要ということですが、術式と侵襲を加えた方向以外に注意すべきポイントはありますか?

回答

ズバリ「ボール」をみることが重要です。詳しく説明していきますね。

THA後の患者さんの脱臼予防においては、術式と侵襲を加えた方向以外に、ジャンピングディスタンスに注意する必要があります。THAは、ソケットから骨頭ボールの骨頭径の半分以上が逸脱することで脱臼します。ジャンピングディスタンスとは、骨頭ボールがソケットから脱臼しにくさの指標で、骨頭ボールの骨頭径が大きいほどソケットは深くなるので、ジャンピングディスタンスも大きくなり、脱臼しにくくなります。骨頭径による脱臼率の違いでは、22mmだと4.6%、26mmだと2.9%、32mmだと0%で、32mmは脱臼率が低くなることが報告されています。1)

注意が必要なのは股関節の可動域エクササイズで、股関節を動かす際に、人工関節がソケットに触れると、骨頭ボールがソケットに乗り上げて脱臼します。そのため、ジャンピングディスタンス小さいほど、狭い可動域でも脱臼が起こりやすくなります。

じゃあ、骨頭ボールを大きくすれば、脱臼しにくくていいよね!というところですが、骨頭ボールは臼蓋のサイズに合わせる必要があるので、好き勝手に大きくできるわけではありません。特に女性の場合はもともとの臼蓋のサイズにより、骨頭ボールが小さくなりがちです。また、骨頭ボールサイズが大きくなると、関節面との摩耗が増えて股関節に負荷がかかりやすくなるため、股関節の状態によっては骨径の小さなものしか選択できない場合もあります。

レントゲン画像などで人工骨頭の大きさを事前に確認し、骨頭ボールとジャンピングディスタンスが小さい場合は、可動域が大きくなりすぎないようにしましょう。その場合は、起居動作、移乗動作時の股関節の屈曲角度も、深くなりすぎないような動作練習および姿勢・動作管理が必要です。

文献
1) 中川剛ほか 32mm径骨頭は人工股関節置換術後の脱臼率を低下させる 整形外科と災害外科62(2)217-219.2013.

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