日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.71 胸部大動脈解離でなぜ血圧の左右差が生じるのか?

質問

突然胸痛が生じた際に疑う疾患をいくつか提示いただきました。その中で、胸部大動脈解離は胸痛のほかに、血圧の左右差が生じると講義いただきました。その理由を教示ください。

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

突然の胸痛を認めた際には、まず、以下の疾患を疑うよう1)に提示しました。

・ 急性冠症候群
・ 大動脈解離
・ 肺塞栓
・ 緊張性気胸

それぞれ講義では、胸痛の持続時間や痛みの種類など特徴を説明しました。
中でもご質問の大動脈解離の上肢の血圧左右差は、特徴的所見となります。大動脈は心臓から出ると

腕頭動脈→左総頚動脈→左鎖骨下動脈

の順番に枝を出します。

解離部位が腕頭動脈の枝に及べば、右上肢が虚血状態となり血圧が下がり、腕頭動脈以降に解離が生じると左上肢の血圧が低くなります。

補足すると、左鎖骨下動脈よりさらに下方で解離が生じると、下肢の虚血が生じるため、下肢の血圧低下や、対麻痺を認めることもあります。臨床では、高齢者の方で上行大動脈を含まないStanford B型が多く、左側の血圧低下を認めることをしばしば経験します。
文献上の大動脈解離の血圧左右差については、重要な手がかりとなるが実際はその頻度はそれほど高くなく20%以下2)とも報告されています。
しかし、胸痛に伴って出現する血圧左右差は診断的価値が高いとも言われ、重要なことは、解離部位にもよりますが、致死的状態に陥る危険性の高い疾患であるということです。

とくに重篤なStanford A型では、上肢の血圧左右差は右上肢のほうが低くなることが多く、早急な治療が必要となります。

1)曷川元編:誰も教えてくれなかったコツがここにある!フィジカルアセスメント完全攻略Book.慧文社p.167,2014

2)Bossone E et al. Usefulness of pulse deficit to predict in-hospital
complications and mortality in patients with acute type A aortic
dissection. Am J Cardiol 2002; 89: 851-855.