日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.656 【Pusher現象があって移乗できない!】ベテランが伝授する介助の工夫

質問

Pusher現象がある患者さんで非麻痺側への体重移動が困難なため、移乗動作介助が大変でいつも2人介助で行っています。何かよい方法はありますか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床学会 講師陣

Pusher現象がみられる患者さんでは、非麻痺側で座面を強く押すことで身体が麻痺側へと傾きやすくなります。さらに、他動的に姿勢を修正しようとすると、それに対して押し返すような抵抗が見られるのが特徴です。

Karnathらの研究(文献1)では、Pusher現象のある患者さんは、非麻痺側に約18度身体が傾いた姿勢を垂直と認識していて、主観的な垂直認知(SPV)と視覚的垂直とのズレが、身体を麻痺側へ傾ける姿勢につながっていると考えられています。

移乗動作獲得のために寝返りや座位の安定性の獲得をめざす際には、非麻痺側を壁や台で支持面をつくり安定性を確保し、自動的な運動を促していくことなどが挙げられますが、環境設定の視点から考えられる工夫は以下の内容が挙げられます。

座位の安定性を得られやすくするために、麻痺側臀部にある程度硬さのある、折り畳んだバスタオルなどを挿入し、麻痺側臀部の知覚入力とともに非麻痺側への重心移動を促す方法があります。また、座位から立位への重心移動をできるだけ小さくし、下肢での押し返しも軽減するように移乗の際にはベッドなどの座面を高く設定するのも有用です。

この他にも、縦手すりを用いて正中を意識しやすくする方法や、下肢装具などを用いて下肢の支持性を高めるアプローチも介助のコツとして使えます。Pusher現象とひとえに言っても、患者さんによっても状態はさまざまで、有効なアプローチは異なります。動作を段階的に分けたうえで成功できるスモールステップを探り、達成できる動作を積み重ねていくことが大切です。

文献1
H O Karnath,S Ferber,J Dichgans  The origin of contraversive pushing: evidence for a second graviceptive system in humans Neurology.2000;55(9):1298-1304