日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.61 離床時の苦しいという訴えを考える

質問

臨床で経験をするのですが、背中側の聴診の結果、背側の無気肺を認めた患者さんに対し、背中側の換気効率を上げる目的で、ヘッドアップから介入します。しかし、患者さんから「苦しい」「きつい」と訴えが聞かれ、バイタルを測定すると、変動はない。なぜ、患者さんは苦しいと訴えるのでしょうか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

まず、「苦しい」「きつい」と訴えた時の患者さんの状況をアセスメントすることが大切です。
「呼吸困難感」(苦しい)は、患者さんの主観的症状であり、人それぞれ感じ方の尺度が異なります。一方、「呼吸不全」(呼吸障害)は、客観的病態であり、SpO₂の低下やチアノーゼの出現を認めます。
バイタルサインの変動がないということは、血圧もSpO₂も問題なかったということです。
では、呼吸状態に何か変化はありましたか?例えば、「呼吸回数が増えた」、「努力性の呼吸が出現した」などです。これらフィジカル所見も同様に大きな変化がないのであれば、今回の場合は、呼吸困難感=呼吸不全ではないことを踏まえて、アセスメントする必要があります。
では、なぜこの患者さんは苦しさを訴えているのでしょうか?考えられる要因は幾つかあります。まずは、心機能の状態はどうでしょう?心不全の状態であれば、少しの体動でも、倦怠感や疲労感を訴える方も多くいらっしゃいます。
また、腎機能が低下している患者さんも同様です。このような場合、離床時の負荷量については、注意深く検討する必要があります。
さらに、見逃してはいけないのが、栄養状態や貧血の状態です。低栄養や貧血の場合でも、呼吸苦や倦怠感を訴えられる方も少なくありません。このように、「呼吸苦=SpO₂」だけではなく、血液・生化学データなど、他のアセスメントを進めていく必要があります。
また、呼吸苦には、検査をしても、病気が見つからない場合、自律神経の乱れが原因である可能性があります。 ストレスが多いと、交感神経が優位に働き、全身が緊張状態となります。 特に気管支周囲が緊張してしまうと、それが原因で呼吸苦となります。
では、どのように自律神経の乱れを改善するのかというと、一番の解消法は、おおもとの原因である「ストレス」を減らすことです。ヘッドアップに対して、ストレスを訴えるのであれば、ヘッドアップのやり方に工夫をつけるのはいかがでしょうか?
・もう少し段階的にヘッドアップを行う
・ご家族やチームで情報の共有化を行い、安心感を与える、
・病棟の配置やナースコールの位置を一工夫した場所に設置し、自然とヘッドアップ(離床)が必要な環境を作り出す
・医師に相談し、抗不安薬の検討
なども考えられます。
まずは、離床を阻害している因子を、疾患「呼吸障害」=呼吸アセスメントだけで行うのではなく、多くの視点から行っていくことが大切となります