日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.52 骨折時の出血量を見極めるには?

質問

講義中、骨折に伴う出血性ショックのお話をされていましたが、内出血の場合の出血量は、どのようにして見極めるのですか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

骨折は臨床でよく遭遇する病態です。在宅だけでなく、入院・入所中の病院や施設でも起こりえますし、骨折そのものも放置すれば出血や二次的合併症によって致死的になる可能性があります。
骨折が致死的になる可能性、そして緊急性の高い病態が「出血性ショック」です。
そんな恐い出血性ショックをどのように見極めるのか、では早速ご質問にお答えしましょう。
まず出血多量によるショック症状は、全血液量の1/5で始まり、危機な状態(生死の分かれ目)は、全血液量の1/3以上で起きてきます。
例えば、体重62kgの人は、約5000mlが全血液量になりますが、ショック症状は、約1000ml以上の出血で起こり、危険な状態になるのは約1700ml以上の出血になります。 次に骨折に伴う出血ですが、骨折が起こると皮下組織の中で「見えない出血」が生じています。
出血量は骨折部位によっても様々ですが、大腿骨骨折(関節包外)では1000~2000ml、骨盤骨折では2000ml以上、さらに骨盤骨折に伴う後腹膜出血では、1000~4000mlもの出血がおきることもあります。1)つまり大腿骨骨折(関節包外)や骨盤骨折では危機的状況に陥りやすいといえるのです。
よって臨床でよくある「夜間自宅で転倒し腰を強打!でも夜中だし病院の開く朝まで待とう…」という判断は最悪の結果を招く可能性があるのです。
ではどのように見極めるのか?
キーワードは「上昇傾向の脈拍」です。通常出血量が500-1000mlになると循環血液量の減少に伴い、脈拍が徐々に上昇してきます。
出血量が1000-1500mlでは血圧低下も加わりショック状態に陥ります。また安静時頻脈は中等度~重度の出血では頻脈にはならないという研究結果2)もあるため、姿勢や体位と脈拍の変化にも注意しておきましょう。
血圧低下に頼らないショックの見極め術を用い、臨床で頑張ってください。

1)整形外科と早期離床ポケットマニュアル 曷川元 丸善 2009
2)Steven McGee,et al.:The rational clinical examination. Is this patient hypovolemic? JAMA 1999;281(11):1022-1029.