日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.51 麻痺側をなかなか使ってくれない場合の対応

質問

内包後脚のラクナ梗塞の患者さんに関しての質問です。現在、MMT3から4の移行期で上肢の分離運動が見られているレベルです。普段から動かしにくいということで、ADL動作は非麻痺側ばかり使って、麻痺側の参加がみられません。講義にあった中枢神経系の廃用(learned nonuse)の観点からも、何とか麻痺側上肢の参加を促していきたいのですが、よい介入方法はありますか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

麻痺側をなかなか使ってくれない患者さんは、よくお見かけします。何故使わないのでしょうか?
では皆さんに質問です。「非利き手で作業をすると、脳トレになって頭の体操になりますよ!」と脳科学者の先生がテレビで言っていたとします。その後非利き手で、食事、歯磨き、書字。。。いつまで続きますか?

筆者であればその日の内にきっともどかしくなって、すぐにいつもの利き手で作業してしまうと思います。片麻痺の患者さんもきっと同じ心境ではないでしょうか。
では、麻痺側を使わない理由はこれだけかと言うと、脳に障害がある場合には他にもあると考えられます。
ご質問の事例では内包後脚に限局した病変という診断ですが、隣接する内包膝部は前頭葉と視床を結ぶ中継点で、障害されると注意障害やせん妄、自発性低下、記憶障害を起こすと報告されています1)-2)

少なからずこの影響により、運動麻痺による動かしづらさに加えて、注意障害や発動性の低下から、麻痺側手の参加が乏しいものと推察されます。また、感覚障害も有無もチェックする必要があると考えられます。
対策としては、注意障害に対しては刺激の少ない環境設定を行い、課題や動作に集中しやすい状況にするようにします。
発動性低下に対しては、薬物やcranial electrotherapy stimulationなどによるに治療が試みられていますが、十分な効果は未だ得られていません。3)-4)

臨床的なポイントとしては、両手動作となるような課題を行ってもらうと、自然と麻痺側の参加も促せます。
例えば、麻痺手でペットボトルを押さえて栓を外す。衣服の紐を結んでもらうなどです。個人的な印象ですが、このような場合あまり自主トレーニングを言って、体操を指導するよりも、ADLで両手動作を促す方が効果があると思います。

また、ADL動作の中でも何の項目が麻痺側を使いにくくしているのかを、考えましょう。分離運動がある程度可能であれば、トイレ動作や更衣といった粗大運動中心の上肢活動であれば可能かもしれません。しかし、歯磨きや食事動作など、より高度な上肢・手指の分離運動が求められる課題に関しては、対応が難しいのかもしれませんね。そのような場合には箸やスプーンのグリップの形状をチェックしたり、補助具を使用して、より麻痺側の参加を促すことも良いでしょう。

最も重要なことは、患者さんの気持ち(使いづらいことは自覚していて、でも億劫で使わない)を理解して、無理強いしない。ということです。

医療者の想いだけではなかなかうまくいかないこともありますが、焦らずアプローチしていってください。

1)北村彰浩 ほか.亜急性に進行する発動性低下を主症状とした内包膝部 branch atheromatous diseaseの一例.脳卒中, 2010
2) Bogousslavsky J, Regli F: Capsular genu syndrome. Neurology 40: 1499–1502, 1990
3) Roth RM, Flashman LA, McAllister TW : Apathy and its treatment. Curr Treat Options Neurol, 9 :363-370, 2007
4) Santa N, Sugimori H, Kusuda K, et al : Apathy and functional recovery following first-ever stroke. Int J Rehabili Res, 31 : 321-326, 2008