日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.20 離床時の人工呼吸器設定変更について

質問

人工呼吸器装着患者さんで起居動作や起立動作を行う際に呼吸数が上昇してしまいます。人工呼吸器のサポート圧を上げると呼吸数上昇を抑えることができるのですが、リハビリ中に人工呼吸器のサポート圧を上げて運動量を増やすのは良いでしょうか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

離床時に人工呼吸器設定を変えれば、もう少し呼吸状態が落ち着いて離床できるのでは?
と考えることは時折あると思います。結論から申し上げると、ケースバイケースです。

例えば、急性期人工呼吸器管理となり離脱に向けてウィーニングを実施している場合であれば、人工呼吸器のサポート圧を上げての無理な離床は控え、病態の回復を待った方が良いと思います。離床時と言えど人工呼吸器のサポート圧を上げる事は、ウィーニングの過程に反してしまいます。
また、設定されたサポート圧で、呼吸状態が安定している患者さんの回復を妨げる可能性があります。
このような場合は、まず、呼吸器設定を変更するのではなく、離床時の負荷量を見直しては如何でしょうか?呼吸数が上昇するということは、患者さんへの運動のタスクが「高すぎる」ということは考えられませんか?起居動作や起立動作は、自身の身体を抗重力方向へ持ち上げる大変な作業です。方法によっては、健常に近い高齢者でも「息こらえ」によって、その後の呼吸が乱れることがあります。

また、離床する際の精神面も影響します。「怖い」「不安感がある」といった場合にも呼吸数が上昇したりします。このような場合は、「段階的な離床が出来ているか?」「姿勢保持に過剰な努力を要していないか?」「姿勢は安定しているか?」「安心を促す声掛けが出来ているか?」などが適切かどうかチェックしましょう。

また人工呼吸器のパラメーターのみで判断せず、血圧、心拍数、患者さん本人の呼吸苦や吸気努力といった所見も合わせて評価できると良いでしょう。

一方、慢性期人工呼吸器管理で離脱困難な症例の場合は、サポート圧を上げて活動性を向上させ、患者さんのQOL向上に繋げるのも良いかもしれませんね。具体的には酸素化を上げたいときは、人工呼吸器設定のPEEPまたはFiO2を上げて、呼吸仕事量の軽減を図りたいときは吸気圧やプレッシャーサポートを上げます。

人工呼吸器を使用している患者さんの離床は、患者さんの病態、全身状態、予備能力をしっかりと把握・評価した上で実施が可能です。必ず多職種で話し合い、安全で効果的なアプローチを行って下さい。