日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.14 Ⅲ度房室ブロック時のQRS波〜T波の秘密とは?

質問

Ⅲ度房室ブロックの病態は心房の刺激が心室へ完全に伝わらなくなってしまった状態ということですが、このときQRS波は幅広くならないのですか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

とても良いところに目をつけていますね!
講座でお話した「心電図の基礎」をよく理解されていると思います。
結論から申しますと、Ⅲ度房室ブロックでは、QRS波が幅広くなる場合とならない場合があります。その違いについて解説していきますね。

Ⅲ度房室ブロックは、房室ブロックが完全に機能停止してしまい、心房の興奮が心室に伝わらず、心房と心室の関係性が絶たれてしまった状態を言います。

心電図波形は、
1.P波とQRS波の関連性がない
2.P波、QRS波それぞれは一定のリズムで出現することが多い
の2点が特徴です。

Ⅲ度房室ブロックは徐脈となり、しかも心房と心室の連動性が失われるため、循環動態が不安定となります。
そのまま放置するとアダムス・ストークス発作を起こすため、ペースメーカーの適応となり、離床は見合わせます。
さて、本題のQRS波の幅ですが、完全房室ブロックではご質問の通り、心室側からすると「あれ?上室から刺激かこないな?じゃあ自分で頑張るしかないね!」ということで、心室は補充調律を始めた状態と捉えます。
心室の補充調律は心室内の異所性興奮ですから、確かに興奮伝導に時間を要し、QRS幅は広くなります。

しかし、実は房室ブロックと言っても起こる場所は細かくいうと心房側、心室側と分けられます。その境は「ヒス束」です。
QRS波が幅広くなる場合は、ヒス束以下でブロックが起きる場合です。
一方房室結節でのブロックの場合、ヒス束で補充調律をとります。ヒス束からの刺激は右脚・左脚→プルキンエ線維と、心室内の正常な伝導路を刺激が流れるため、伝導速度は正常で、QRS幅は正常幅となるわけです。
例外としてヒス束の補充調律でも、脚ブロックを合併するとQRS幅は広くなります。
一般的に補充調律の部位が下位になればなるほど、徐脈となりリスクが高まります。
房室ブロック時のQRS波の幅が、ケア・離床時の治療の緊急性を判断するひとつの判断材料になると考えられます。
是非、臨床で活かしてください。

文献1) 日本離床研究会編:循環器ケアと早期離床ポケットマニュアル.丸善プラネット,P83, 2009