日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.12 COPDでSpO2が保てない方に嚥下をすすめるか否か

質問

COPD:慢性閉塞性肺疾患の方でSpO2が変動する方がいますが、嚥下の直接訓練や経口食をすすめても影響はないのでしょうか?また、嚥下性無呼吸との関係も教えてください。

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

嚥下と呼吸の関係は切っても切り離せず、ご質問の患者さんのように、呼吸状態が不安定な方は少なからず嚥下にも影響があると疑った方が良いと考えます。その理由は嚥下反射において、食塊が咽頭を通過する際には、一時的に呼吸を停止して食塊の誤嚥や、鼻腔への逆流を防いでいます。これを嚥下性無呼吸といいます。
つまり、一瞬でも呼吸を止めても呼吸パターンが乱れないということも安全に嚥下できるための前提条件になります。
具体的には咽頭通過時間は0.5秒以内であるため、ほんの数秒息こらえが出来れば良い事になりますが、ベースにCOPDなどの呼吸器疾患がある場合には、「ほんの数秒」の息こらえでも容易に呼吸苦を訴え、SpO2の低下を認めます。
また、嚥下反射前の口腔期(咀嚼期)には食塊が口腔内に保持されているので、鼻呼吸となります。このため鼻呼吸で呼吸が維持出来るかどうかも重要なアセスメント項目となります。

このように、嚥下反射時の無呼吸のみで考えるとそれほど長い時間呼吸を停止するわけではないので、特に影響がないように見えますが、嚥下の先行期から咽頭期まででみると、数秒間は通常の呼吸が行えないことになり、食事中はこの動作を何回も繰り返すことになりますので、呼吸状態の不安定な患者さんにとって、嚥下動作の繰り返しが、負担になることはご理解いただけると思います。

まとめると、
・数秒間(3秒程度)の息こらえが出来るか
・鼻呼吸が維持出来るか
上記2つの評価をSpO2モニタリングしながら行うと、嚥下に耐えうる呼吸状態かどうかの指標となります。
もちろん嚥下そのもののアセスメントではありませんので、経口食や直接訓練をすすめる際には、その他のアセスメントと併せて判断を行ってくださいね。
また、上記アセスメントを実施し、食事を開始した際に、SpO2の低下を認めたり、呼吸苦が出現する場合は、医師と協議した上で、「一時的に酸素流量を増加する」、「咀嚼する時間を短くするために食形態を見直す」ことや「一口量を調節する指導」も必要です。
1つ2つの評価やアプローチではなく、様々な引き出しを用意し、提供することが大切です。