日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.11 なぜ利尿剤でアルカローシス!?

質問

酸塩基平衡の異常には4つの基本型があると講座で学びました。その4つの基本型の1つ、代謝性アルカローシスになる原因に「利尿剤の投与」とありましたが、どうしてもイメージ出来ないので、教えてください。

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

ただ異常となる原因を丸暗記するのではなく、しっかりと理由まで考えるのは臨床的にとても重要なことだと思います。解説しましょう!
おさらいですが、生体の酸塩基平衡は通常中性に保たれており、(正確には弱アルカリ性)これを表す指標がpHと言い、pH 7.35~7.45 が生体にとって中性です。
pH とは水素イオンの濃度を表す尺度です。この pH は PaCO2 とHCO3- の関係で決まります。アルカローシスというのは、生体がアルカリ性に傾いた状態を表し、このとき pH は値が7.4より上昇します。
アルカローシスになる時は、PaCO2が減るか、HCO3-が増えるかの2通りです。
ご質問の代謝性アルカローシスは、HCO3-が増えるパターンの時ですが、何故利尿剤を投与するとHCO3-が増えるのか?ですが、電解質が大きく関わっています。
利尿剤を投与すると、尿中にナトリウムやカリウムなどの電解質が排泄されます。特に注目すべきは低カリウム血症です。低カリウム血症になると、本来細胞内に多いカリウムが細胞外に出て、代わりに水素イオン(H+)が細胞内に流入します。水素イオンは細胞外にいるときはHCO3-を代謝して打ち消しています。低カリウム血症になると、HCO3-を打ち消す役の水素イオンがいなくなるために(細胞内に移動)、通常よりもHCO3-が多く存在することとなります。これにより代謝性アルカローシスとなるわけです。ちなみに、利尿剤の中でも、ループ利尿薬:ラシックス®(フロセミド)やサイアザイド系利尿薬〔フルイトラン®(トリクロルメチアジド)は低カリウム血症を起こしやすい薬剤ですので、チェックしておいてください。
さらに、代謝性アルカローシスの代償反応として、PaCO2が上昇し、CO2ナルコーシスを引き起こすとも言われているので、呼吸状態の観察も忘れてないように注意が必要です。
代謝性アルカローシスの呼吸代償の基本は換気抑制によるPaCO2の上昇ですが、一般的には出現し難いと言われています。(特に低カリウム血症に起因する代謝性アルカローシスに対しては呼吸性代償が出現しないとされています)
アルカローシスという病態だけで離床の判断をすることは難しいことですが、その裏に隠れている電解質異常や呼吸状態に気を配りながら、アセスメント、ケア、離床の負荷量決定などに活かしてください。