日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.103 人工股関節全置換術(THA)の術式による違い

質問

当院ではTHAの手術は後方進入が多いのですが、前方進入の方がADLの脱臼のリスクを考えると良いように思えます。具体的には、どのように決めているのでしょうか?またそのメリットやデメリットを教えてください。

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

A.THAの脱臼方向は術式によって変わります。
前方進入法の場合は伸展-外旋が禁忌姿位となります。
後方進入法の場合は屈曲-内転-内旋が禁忌姿位となります。

手術法の違いを見てみると、近年では前方進入法は低侵襲法(MIS)で行われています。
そのメリットは皮切が小さく、筋腱切離が少ないため早期の機能改善やADLの自立、早期退院が見込まれます。

前方進入法と後方進入法をADLに関連する脱臼や動作制限で比較すると、前方進入法の方は、術後動作制限も少なく1)、ADL動作をみても前方脱臼する動作は殆どないため安全と考えられます。

手術操作(侵入経路)を見てみると前方進入法は、縫工筋と大腿筋膜張筋の間を進入していきますが、後方進入法は大殿筋や中殿筋を分けて進入し、短外旋筋群を切離するため術後の筋力も前方進入法の方が早く回復する傾向にあります。

外転筋力では、前方進入法の方が早期回復を認め、歩行に重要となる荷重率においても有意な増加を認めたとの報告2)があり、筆者の経験からも、臨床的に術後の経過をみると前方進入法の方が優れているように思えます。

一方、デメリットとしては術野が狭く、術野が広い後方進入法と比較すると手術手技も難しく、手術時間も長時間になります。また骨折などのリスクも多いとの報告があります3)。

術野が狭いということは、若手の医師が見て学ぶことができないため指導もしづらいのが現状の様で、豊富な経験が必要となるとの報告があります4)。

上記のような術式のメリット・デメリットを理解し、患者や他職種とのコミュニケーションにお役立て下さい。

1) 神野哲也ほか:人工股関節脱臼対策における進入法選択と術中・術後の股関節可動域.整形・災害外科.2013;56:1265-72
2) 松原 正明ほか:Minimally invasive surgeryによるcementless
THAの臨床成績.骨・関節・靭帯.2004;17:1333-8
3) Woolson,ST. et al: Primary total hip arthroplasty using an anterior
approach and a fracture table. J Arthroplasty. 2009; 24: 999-1005.
4) 平川和男:MIS THAの歴史、適応、メリットとデメリット.松野 丈夫 編.THAのすべて.メジカルビュー社,東京,2015