日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

【大腿骨近位部の画像を見る2つの重要なポイント】運動器最新エビデンス

新コーナー「整形外科・運動器最新エビデンス」の最新情報をお届けします!このコーナーでは、運動器リハビリのエキスパートである海津先生が“これは面白い”という、整形外科・運動器にまつわるエビデンスを紹介。数値や統計の専門用語が出てきますが、このシリーズで、かみ砕いて解説してくれるので、少しずつ慣れていくように、是非、読んでみてください。

今回は「大腿骨近位部の画像を見る2つの重要なポイント」という内容を紹介します。

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大腿骨近位部骨折の画像を見ていると、「Adams’ arch(アダムスアーチ)」と「calcar femorale(大腿距)」という言葉が出てきます。もし「この2つの違い、説明できますか?」と聞かれたら、多くの方が「えっと…」と詰まってしまうかもしれませんが、でも実はこの2つ、骨折の安定性や荷重設計を考えるうえで、かなり重要な構造です。そこで今回は、1830年代から現代までの文献をたどり、両者の定義と“混同の歴史”を整理してくれた論文を紹介します。

まず Adams’ arch です。1834年、外科医Robert Adamsが大腿骨頸部骨折の講義で、「頸部内側の皮質が厚くなった部分が重要だ」と示したのが始まりでした。この“内側の厚い皮質”が、荷重を支えるアーチとして捉えられ、概念が広がっていきます。つまり、Adams’ archは「大腿骨頸部の肥厚した内側皮質そのもの」を指します。

一方で calcar femorale(大腿距) は別物です。1949年にEvansがこの用語を用いた際、頸部内側の肥厚皮質をcalcarと呼んでしまい、ここから混同が加速しました。1955年にTobinが解剖学的に、calcar femoraleを小転子のすぐ下から内側へ垂直に伸びる“骨板状の構造”として記述します。ただ、図の表現なども影響して「calcar=内側の分厚い骨」という誤解が残り、臨床に広がってしまいました。

この混乱を正そうとしたのが1982年のGriffinで、「calcarは小転子直下の垂直な骨板に限定し、Adams’ archとは区別すべき」と再定義しました。しかし提言は十分に浸透せず、今でも教科書や論文で混用が見られます。

この論文が示す整理はシンプルです。Adams’ arch=頸部内側の“厚い皮質”。calcar femorale=小転子直下から立ち上がる“垂直の骨板”。

私たちが術後リハや荷重設計を考えるとき、「内側支持が保たれているのはどっちの話か」を言語化できるだけで、読影と臨床推論の精度が上がります。骨強度や転位リスクの見立てが、ワンランク具体的になるはずです。次のカンファレンスでは、「その内側支持、Adams’ archの話? それともcalcar?」と一言添えてみてください。“名前の整理”が、そのまま臨床の整理につながります。

文献情報:
Bartoníček J, Alt J, Naňka O. Internal architecture of the proximal femur: calcar femorale or Adams’ arch? International Orthopaedics. 2023:1–7.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36928707/

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