日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

【早期離床が有害事象を増やす?】Dr中西の離床面白エビデンス

人気コーナー「Dr中西の離床面白エビデンス」の最新情報をお届けします!
このコーナーでは、当会の医師部会の中西医師が“これは面白い”という、離床にまつわるエビデンスを紹介。
中西節でわかりやすく、楽しく、ユーモアを交えて教えてくれます。

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さて、今回は最近話題になっていたこの論文についてです!早期離床が有害事象を増やす????

11月のNew England Journal of Medicineに掲載されて話題になりました。この研究はANZICSというオーストラリアとニュージーランドを中心としたグループとアイルランド、ドイツ、イギリス、ブラジルのメンバーから報告されました。なにやらサッカーの強そうなグループです。著者が多すぎて著者名がThe TEAM Study Investigators and the ANZICS Clinical Trials Groupとなっております。

この研究ではICUで人工呼吸管理をうけている750人の患者が無作為に早期離床と通常ケアの2群に振り分けました。主要評価項目は患者さんの180日以内の生存退院していた期間です。早期離床群では1日の離床時間が21分だったのに対して通常ケア群では9分という結果でした。一方、立位までに要した日数は早期離床群が3日、通常ケア群が5日という結果となっています。結果は、患者さんの生存に関しては有意差がありませんでした。
早期離床群 vs. 通常治療  143日 vs. 145日 p = 0.62

死亡率、生活の質、ADL、機能障害、認知機能、精神機能に関しても有意差はなかったようです。

そして、有害事象が早期離床群の方が多かったという結果になっております。
深刻な有害事象
早期離床群 vs. 通常治療 7件 vs. 1件

離床に関係するかもしれない有害事象(不整脈、血圧の変動、酸素飽和度低下)
早期離床群 vs. 通常治療 9% vs. 4% p = 0.005

つまり、早期離床が有害事象を増やすという結果になっています。「ちょっと待ったー!」という声が聞こえてきそうです。離床は本当に有害なのでしょうか。

どのような患者さんが含まれたのかというと、心拍数150拍以上, 乳酸値 4 mmol/L, FiO2 0.6以上, PEEP 16cmH2O以上とけっこう重症な患者さんも含まれています。

通常ケア群って何??
2018年からこの研究は始まっていますので、通常ケア群も早期離床が共通認識であった時代のものです。実際に重症患者で立位までに5日というのはICUでは十分早いような気もします。

6分間歩行とか握力とかより詳細な身体機能はどうなっていたのか?

気になる点は山のようにあります。

Dr中西の結論としては次のように感じました。

「早期離床は世界で共通認識になっている。対照群も早期離床はできてそうで、この研究は早期離床の有無を比較したものではない。一定の基準だけに従った早すぎる離床は不整脈やバイタルサインの変動をきたすリスクがある。そのため一人一人の患者さんで多職種で離床目標を日々アセスメントしながら、安全に早期離床をしていく必要がある。」と理解しました。早期離床に対して、どの患者さんでどれくらいの離床をどのタイミングでするのか、よりレベルの高いアセスメントが必要になってくる時代が到来した予感です!ちなみの、この解釈に対してコメントは受けつけません(笑)

どんな研究でも意味があります。みなさんも是非、ご自身で一読下さい!

決して、決して、決して早期離床をやめず日々、離床のアセスメントです!!

Early Active Mobilization during Mechanical Ventilation in the ICU
N Engl J Med. 2022 Nov 10;387(19):1747-1758.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/36286256/