日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.62 開腹術後の徒手的呼吸介助手技

質問

開腹術後の徒手的呼吸介助手技について、適応のある症例に用いることがあるのですが、なかなか有効な排痰が行えません。方法が間違っているのでしょうか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

講義の中でもお伝えしましたが、多くの手技は万能ではありません。適応と限界があります。
教科書には適応と書いてあっても、個人にとっては有用とならない場合もあります。
開腹術後には、創部を軽く圧迫するようにすると、咳嗽時の痛みが軽減することが期待できます。
これは、圧刺激を創 部周囲に加えることで、痛みの神経経路であるAδ線維やC線維と異なる、触圧覚の神経経路であるAβ線維への刺激し、痛み刺激を緩和するという方法です。
Aδ線維やC線維に比べAβ線維は、神経線維が太く、神経伝導速度が早いため効果的とされています。
それでもこの方法は万能ではありません。痛みの感じ方には個人差があり、圧迫すると却って痛みが増強するという事例も時々経験します。

その様な場合は、咳嗽から開始せず、まずは、疼痛範囲内での深呼吸から、始めてみて下さい。深く吸えれば、早く大きく吐けることにつながります。少しでも呼気流速を挙げて排痰を促すには、この様に、スモールステップから、始めるのも一手でしょう。
上記方法で疼痛 自制内であれば、少しずつ、吐く速さ・強さをあげて、ハッフィングにまで到達できれば、より排痰出来る可能性が高まります。
また、室内の湿度、飲水量にも気を配り、可能な限り痰の粘性を下げることも大切ですね。

最後に、ケアは排痰のみならず!
呼吸状態が安定せず、痰も多い。。。
そのような時でも優先すべきケア・介入は、まず「起こすこと」ではないでしょうか。
全身状態をアセスメントして可能な限り起こすことが第一選択となります。積極的に起こすことが難しい場合は体位変換でも良いと思います。

徒手的呼吸介助手技は、これらの介入の補助手段です。
困難な事例ほど基本に返り、真摯に向き合うことが重要であると考えます。