日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

【肩甲骨というトリムタブ】運動器エビデンス

新コーナー「整形外科・運動器最新エビデンス」の最新情報をお届けします!このコーナーでは、運動器リハビリのエキスパートである海津先生が“これは面白い”という、整形外科・運動器にまつわるエビデンスを紹介。数値や統計の専門用語が出てきますが、このシリーズで、かみ砕いて解説してくれるので、少しずつ慣れていくように、是非、読んでみてください。

今回は「肩甲骨というトリムタブ」という内容を紹介します。

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「姿勢は心の鏡である」と、ルイーズ・ヘイは言ったように、正しい姿勢は健康の象徴であり、心身のバランスを反映します。

よくある姿勢異常の一つに、頭部前方位姿勢(forward head posture, FHP)があります。この姿勢は長時間のスマートフォンの使用や、デスクワークなどにより引き起こされる現代病の1つです。正常な姿勢では、外耳孔(耳の穴)と肩峰を結ぶ線が一直線になりますが、FHPでは頭部がこの線よりも前方に位置します。

さて、この姿勢を改善するためには、どうしたら良いのでしょうか。今回は、肩甲骨安定化運動を、姿勢矯正エクササイズに加えることで、どれほどの効果があるのかを検討した研究を紹介します。この研究では、60名のFHPを持つ参加者を対象に行われました。参加者はランダムに二つのグループに分けられました。グループAは、肩甲骨安定化運動と姿勢矯正エクササイズの両方を行い、グループBは姿勢矯正エクササイズのみを行いました。各グループは、週3回、10週間の治療を受けました。

研究の結果、肩甲骨安定化運動を加えたグループは、頭蓋椎角、圧痛閾値、頚部屈筋・伸筋持久力において有意な改善が見られました(P値<0.05)。特に、圧痛閾値や筋活動の減少において顕著な効果が確認されました。一方、姿勢矯正エクササイズのみを行ったグループも改善は見られましたが、肩甲骨安定化運動を追加したグループに比べてその効果は小さいものでした。この結果から、姿勢矯正エクササイズに肩甲骨安定化を追加することが、前方頭位姿勢の改善に有効であることが示されました。

具体的な肩甲骨安定化運動の内容とポイントは次の通りです。
• 仰臥位で腕を肩関節屈曲90°まで上げる運動
• 四つ這いで交互に腕を上げる運動(肩の外転と120°の屈曲で交互に腕を上げる)
• 座位でダンベルを使った肩甲骨の横方向への運動
• スイスボール上に腹臥位で肩甲骨を後退させたまま腕を屈曲・外転させる。
• 肩甲骨時計運動(壁際に立ち、ボールに手を添えて押しながら、3時、6時、9時、12時を表示するように動かす。関節運動感覚や姿勢の安全な動作の固有感覚を養う)

具体的な姿勢矯正エクササイズの内容とポイントは次の通りです。
• 頚部深屈筋の強化(介助者は鼻の下と唇の上に軽く触れ、患者に首をかしげるように指示する)
• 肩甲帯内転筋の強化(肩甲骨の下角を縮めるように力を入れる)
• 頚部伸筋のストレッチ
• 後頭下筋と大胸筋のストレッチ

これらのポイントを押さえて、肩関節のアプローチを行ってみると良いと思います。

突然ですが、『トリムタブ』というものを知っていますでしょうか。トリムタブとは、船のスクリューの真後ろについている、ほんの小さな板のような部品で、構造としてはとても小さいのですが、舵を動かすことで、このトリムタブの方向が変わり、それが大きな船の方向を変えるのです。姿勢と肩甲骨の関係は、船全体とトリムタブの関係に似ていると感じます。小さな肩甲骨の運動が、大きな姿勢の改善をもたらす。是非、皆さんも肩甲骨安定化運動を取り入れて、健康な姿勢を手に入れてみてください。

文献情報:
Alshaymaa, S., et al. “Impact of adding scapular stabilization to postural correctional exercises on symptomatic forward head posture: randomized trials.” European Journal of Physical and Rehabilitation Medicine 2022 October;58(5):757-66
https://doi.org/10.23736/S1973-9087.22.07361-0

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