日本離床学会 - 早期離床・看護・リハビリテーション

Q&A Vol.120 目に見えない障害:遂行機能障害について

質問

遂行機能障害の障害イメージがわきません。また、前頭葉損傷以外にも遂行機能障害は出現するのでしょうか?

回答

回答者:曷川 元、他 日本離床研究会 講師陣

近年、がん患者のケアやリハビリテーションに悩まれる方を多く散見します。今回の質問である「ビネホスホネート薬」とは、骨を壊す過程を抑えて骨量の低下を抑え、骨を強くし骨粗鬆症による骨折などの危険性を低下させる薬として使用されます。また、腫瘍の骨転移などによる骨の脆弱性を来す疾患に使用する場合もあります。

 しかし、薬剤には必ず副作用があり、今回のビスホスホネートや抗RANKL抗体を使用した時に起こる重大な副作用に、薬剤性顎骨壊死が挙げられます。

かに、遂行機能障害と聞いてもどんな障害かはイメージがしにくいと思います。 Lezak¹⁾は、この遂行機能に概念上4つの要素、

1.目標の設定

2.計画の立案

3.目標に向かって計画を実際に行う

4.効果的に行動を行う

の4段階の継起的なモデルを提示しています。

 上記より考えると遂行機能とは、目標に向かって、周囲の人々とうまく調整を行い、日常生活の活動を手際よく進めていくために必要な機能です。 つまり遂行機能障害とは、社会的な問題を解決できず、日常生活に援助が必要である状態です。 また、臨床上、前頭葉損傷以外にも遂行機能障害がみられるケースに遭遇することがあります。 遂行機能障害の責任病巣は、前頭前野を含む神経系の損傷によりと考えられています。 しかし、皮質のみならず皮質下損傷によっても起こるとも考えられています。 Cummings²⁾は前頭葉、線状体、淡蒼球、視床を結ぶ、前頭葉‐皮質下回路に3つの回路があることを指摘しています。

 このうち

①背外側前頭葉回路が遂行機能障害およびプログラミング障害

②眼窩脳回路が易刺激性、脱抑制

③前帯状回回路が無感情、無関心、発動性低下

にそれぞれ関連します。

 つまり、前頭前野に損傷が存在しなくても上記3つのいずれかの回路が損傷されれば、遂行機能の障害が出現することが考えられます。 講義でもお伝えした通り、責任病巣だけを追うのではなく、脳のつながりを理解することが目に見えない症状を予測して、適切なケア・アプローチへつなげる一助となります。

参考文献

1)Lezak MD:Neuropsychological Assessment,3rd ed,1995 鹿島晴雄(総監修),三村 將,村松太郎(監訳),レザック神経心理学的検査集成,遂行機能と運動行為,創造出版,2005,pp375-394

2)Cummings J:Frontal-subcortical circuits and human behavior. Arch Neurol. 1993 Aug;50(8):873-80.